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藤の屋文具店

藤の屋文具店

自動車マニア実践講座 6~10

【自動車マニア実践講座】

              冷却


 人間には、暑いとか寒いとかいう感覚があり、ちょうど良い気温
でないと仕事をしたくないという、贅沢な欲求があります。鉄やア
ルミのようなたかが物質で出来たエンジンなんぞ、暑かろうが寒か
ろうがわかりっこないから、平気で働いてくれそうなものですが、
実際には、手厚く対策されて一定の温度に維持されています。エン
ジンの温度は、なぜ、ある程度の範囲に管理しなければいけないの
でしょうか。もちろん、鉄やアルミが溶けたり燃えたりする高温で
はいけませんが、摂氏二十度や三百度なら、特にどうということは
ありませんね。

 鉄やアルミなどの金属は、温度によって伸び縮みします。真夏の
電線は冬と違ってだらりとさがりますし、おとうさんが脳溢血にな
るまで気張っても開かない冷蔵庫の海苔の佃煮のキャップは、お湯
をかけるとか弱い女性の手でもぱこりと開きますが、これらは、熱
くなると金属は延びてひろがるという性質による、不思議な現象な
のです。
 金属は暖めると膨張するというのは、誰でもわりと知っている常
識ですが、では、例えば鋼鉄のドーナツを火鉢であっためると、そ
の穴は広がるか縮むかということになると、少し自信の無い人も出
てくると思います。金属の部分がひろがるんだから、中央の穴に向
かっても攻めてきそうですね。寝正月で巨大化したおとーさんのお
へそみたいに埋没しそうです。でも、実際には、ドーナツの穴は広
がります。むつかしい理屈は省略して、拡大コピーをするように全
体が大きくなると憶えてください。

 ドーナツの穴が広がるということは、エンジンも、温度が高くな
るとがばがばになるということになります。でも、中を行ったり来
たりするピストンも、やはり大きくなるわけですね。ピストンにし
ても穴、シリンダーといいますが、にしても、小麦粉をこねたよう
な均質な構造ではなくて、いろいろなリブや穴なんかがあるわけで、
材質だって同じものではありませんから、どんな温度でもちょうど
よい関係、なんてことにはなりませんね。
 そこで、エンジンでは、だいたいこんな温度で運転したいなぁと
いう目標温度を設定して、その温度のときにちょうど良い寸法にな
っているように、いろんな部品を設計しておくわけです。一般的に、
エンジンは、その温度のときに各部が適切な隙間で、低温の時には
ぎちぎち、高温になるとがばがばになる傾向があります。
 ぎちぎちになると摩擦がおっきくなって馬力がおちるし、がばが
ばだと、大きすぎる靴を履いて自転車を漕ぐみたいなもんで、うま
く力を出せずにガタガタと不安定になったりします。タクシーやバ
スや大型トラック等の運転手が、きっちりと暖機運転をするのは、
機械のことをきちんと理解しているからですね。

 エンジンの設計温度は、いろいろと違います。海や川の水を使い
捨てで冷却する船舶のエンジンでは低めですし、空気で冷やす空冷
エンジンでは高めになります。現代の自動車エンジンのほとんどは、
100度よりちょっと上に設定しています。安全で使いやすい水の
沸点が百度なので、効率を上げるために蓋をして圧力を少し掛けて
得られる水温だからです。圧力を掛けるのは、富士山の上でコーヒ
ーを沸かすと、早めに沸騰しちゃってぬるいのしか飲めない原理の
応用で、オーバーヒートしたラジエータの蓋をとると大噴水が上が
る原因にもなっていますね。液体の沸騰する温度は気圧で変わると
いう、有名な物理学の法則です。めもめも。


         【自動車マニア実践講座】

           トランスミッション


 むかーし免許をとった人は、「構造」というのを習いました。自
動車の仕組みですね。そこで、エンジン、デフ、ブレーキ、懸架装
置などといっしょに、変速機のことを学んだわけですが、あくまで
も仕組みとしての知識ばかりで、その意味に付いては触れていませ
んでした。なぜ、変速機は必要で、スポーツ車種ほどたくさんのギ
アセットを必要とするのでしょう。評論家やマニアと呼ばれる人の
中にすらも、難しい単語でもごもごとつぶやくしかできない人がい
たりします。本質は、とても単純なことですので、ちょっとおさら
いしてみましょうね。

 普通、今の乗用車のエンジンは、6000回転くらいまで回りま
す。ただし、あまり低い回転では力が出ません。だいたい、200
0回転くらいから力が出てきます。また、自動車は、普通、時速1
0キロくらいから、まともな人なら120キロくらいまでの速度で、
道路を走っています。
 もしも変速機のギアが一組だけなら、6000回転で120キロ
が出るように設計すれば、40キロ以下では走れなくなってしまい
ますし、10キロでも走れるようにすれば、30キロ以上の速度が
出せなくなってしまいます。
 というわけで、低速で走るためのギヤセットと高速で走るための
ギヤセットを、状況に応じて切り替えて使おうというのが、変速機
が利用されるようになったそもそもの原因なのであります。

 ここで、もしも18000回転まで使えるエンジンや、500回
転でもうんと力が出るエンジンがあれば、変速機のギヤは一組でよ
いことになります。レーシングカートは前者ですし、低い回転では
人力に頼るモペット、ソレックスやポンポンと呼ばれたいにしえの
自転車バイクなんかは後者ですね。また、初代ポルシェターボなん
かは、ちからがもりもりなので4段変速機で発売されました。もっ
とも、マニアの多くは「段数が多いほどエライ」という程度の知性
ですので、商売のためだけにあとで5段化されましたが。

 さて、現代のクルマの変速機は、だいたい5つのギヤセットを組
み込んでいます。昔は3つが普通だったのですが、大量生産による
コストダウンが可能になって、経済的な制約が小さくなったからで
す。エンジンの回転数と速度の関係からは2つでよいはずなのに、
なぜそれ以上あるかというと、たとえば上り坂では、平坦路よりも
大きな力が必要なために、エンジンをたくさん回して馬力を出す必
要がありますし、平らな道を走る時は、速度が倍になっても必要な
力はそこまで大きくならないということもあります。
 そのような時に、必要の無い高回転や立ち往生を防ぐためには、
選択できるギヤ・・・エンジン回転と速度の関係・・・は、多いほ
うがよいわけです。レース車両などでは、加速をすばやく行うため
にも、たくさんのギアセットが望ましく、排気量が小さくなればな
るほど、ギヤセットの多さがメリットになります。昔の50ccの
レーシングバイクなんかは、15段変速なんてのもありましたね。

 今の日本の乗用車は、商用車とはまったく違って、ボディに対し
て気違いじみた大馬力エンジンを搭載しているため、変速機は3段
あれば十分以上なのですが、運転を遊びとして楽しむには、5段や
6段のギアがあったほうが面白いので、メーカーは高価なクルマの
ほうに6段のギアセットを設定し、より必要なはずの小排気量エン
ジンの小型車には5段を設定しています。単に営業上の判断です。


         【自動車マニア実践講座】

           シンクロナイザ


 マニュアルミッションのクルマで高速道路を走っていて、例えば
急な坂道なんかでギアをひとつ下にシフトすると、それまで250
0回転で回っていたエンジンが、同じ速度でも3200回転になっ
たりしますね。噛み合うギアセットの歯の数の割合が変わるために、
エンジンと、タイヤにつながるシャフトの回転の比率が変わるわけ
です。
 ギヤボックスの中には、エンジンの方へつながるシャフトと、タ
イヤの方へつながるシャフトがあります。それぞれにいくつかのギ
アが刺さっていて、シフトレバーを動かすことによって、特定のギ
ヤセットとシャフトが連結する構造になっています。詳しく知りた
い人は、軽自動車なんかの軽いミッションを自分で分解すればよく
わかります。本屋さんで自動車工学の本を買ってもよいでしょう。

 さて、世界中のドライバーがみな高度に熟練した運転士なら、ギ
ヤボックスはこれで良いのですが、現実はそうではありません。あ
れほどたくさんあったオートマ車の暴走事故が、シフトロック等の
装置の設定で事実上なくなったことでもわかるように、ドライバー
の技能や注意力といったものには限界があるわけです。何が言いた
いかというと、誰が運転するかわからない市民の道具としての自動
車には、誰が運転しても大丈夫なような安楽装置や、安全装置が必
要になってくるというわけで、ATよりも人間の操作が多いMTの
場合には、そのための補助装置が必要になるということなのです。

 たとえば、ローギアで発進してしばらくすると、セカンドギアに
チェンジするわけですが、クラッチを切ってギアをローから抜いて
セカンドに入れる時に、じつはちょっとした矛盾が生まれます。
 それは、タイヤの方につながりっぱなしのシャフトの方は、速度
に応じた回転をしているのに対して、クラッチ板につながった方の
シャフトは、入れ替えるギアによって、いろいろと回転数が変わる
必要があるわけで、回転が変わらないままにシフトを強行すれば、
受け付けてくれないわけです。
 したがって、例えばランエボで峠をかっとんでいる清次くんに、
チキチキバンバンなんかを運転させたりすると、しゅぱぁっと電光
石火のシフトをした瞬間、ごぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃっ! といって、
盛大なギア鳴りを起こしてしまいますね。アタマの悪い清次くんは、
「な、なぜだ・・」と呆然とすることでしょう。 

 そこで発明されたのが、シンクロナイザという装置です。シンク
ロナイズというのは、鼻をつまんだおねーさんが笑いながら脚を見
せるという意味ではなくて、同調する、いっしょにうまいことやる
という意味です。ようするに、ギヤセットを切り替える時に、エン
ジンへとつながる方のシャフトの回転を、タイヤの方へつながるシ
ャフトの回転に対応するように、増やしたり減らしたりして合わせ
てやる装置です。具体的には、ギアの組み合わせの変更に先だって、
摩擦リングをぐりぐりと押しつけて、シャフトの回転数を増減する
ようになっています。
 このような装置が開発される前は、ギヤを切り替える時に、クラ
ッチを切ってからニュートラルにシフトしてクラッチをつなぎ、こ
れから使用するギアにふさわしい回転数までエンジンの回転数を調
節してからクラッチを切ってギアを入れ替え、そしてつないでいま
した。とてもめんどくさくて神経を遣う作業だったので、シンクロ
装置が普及して、みんなとっても喜んだものです。

 このテクニックを楽しみのために行っているのが、マニアの言う
「ダブルクラッチ」とか「ヒルアンドトゥ」とかいう類の技なので
すが、それはちょうど、相手を倒すための格闘技である太極拳が、
平和な今の時代では健康体操として、美しい型を披露するために愛
されているのに似ています。いやぁ、平和って、ほんとにいいもん
ですねぇ。。


         【自動車マニア実践講座】

           サスペンション


 街を走る改造車の中に、ちゅうぶるの大きいセダンなんかで、
やけに車高の低いクルマがいます。たいてい、口をいつも半開き
にした、少年チャンピオン系のマンガの登場人物のような男の子
が運転しているアレです。この手の中でも極端に低いクルマで、
まるで痙攣でもしているみたいにヒクヒクと動きながら走ってい
るものがあって、マニアの人達は、「ノーサス」と呼んでいます。

 これは、じつは厳密に言うと間違いで、ほんとは「ノースプリ
ング」という状態です。サスペンションというのは、車軸とボデ
ィの間をつなぐシステム一式のことで、アームとスプリングとシ
ョックアブソーバという、だいたいみっつの要素で構成されてい
ます。ほんとうの「ノーサス」は、大八車とかリヤカーのように、
車体に直接、車軸が取りつけられている形式なのです。

 サスペンションはなぜ必要なのでしょう。もしも車軸が直接ク
ルマに固定されていたら、たとえばでこぼこ道でボディががたが
た揺れた時に、車輪はボディに引っ張られて時々宙に浮いてしま
いますね。それが駆動輪ならば、駆動力が伝わらなくなりますし、
操向輪なら、ハンドルが効かなくなります。また、サーキットの
ような滑らかな路面でも、速度がうんと速ければ、でこぼこは力
学的に増幅されてクルマを襲いますね。

 ジープのようなタイプのクルマでは、でこぼこの極端な路面を
走ることが本来の目的ですから、サスペンションの性格は、でき
るだけ自由に伸び縮みして、タイヤが路面から離れないことが必
要になります。中学校の数学でも教えている通り、平面はみっつ
の点で決定されますから、よっつのタイヤの最後のひとつを浮か
ないようにするには、かなりの自由度が必要なわけですね。した
がって、ジープタイプのクルマは、よく伸びて柔らかいサスペン
ションが与えられるわけです。
 一方、重量税の増設によって舗装化が驀進された普通の道路で
は、そういう性能はまったく必要とされません。道路だけを走る
多くのクルマにとっての高性能は、速い速度で走るというただそ
れだけです。直線については、馬力さえあればチンパンジーでも
速く走れますので、問題はカーブですね。カーブを走る場合、柔
らかいサスペンションは、ボディをぐらっと傾かせます。際限無
く柔らかくていくらでも伸びると、ボディはついには横倒しにな
ります。これでは事故が起きてしまいますから、ある程度ボディ
が傾いたところでふんばるようにしなくてはなりません。そこか
ら後は、タイヤが滑って遠心力を逃がすわけです。

 おしりの青い評論家、体育の世界でいうならインターハイ程度
のレースで、たまーに勝つ程度には操縦の上手なドライバーなん
かですが、そういう人は、やたら欧州輸出仕様のサスペンション
をべた褒めして、国内向けのサスはユーザーを馬鹿にしていると
か、こんなサスを喜ぶユーザーは(俺様と違って)無知なやつら
だとえっへんしますが、それは、ひとりで乗って、制限速度を無
視して平日の箱根なんかを遊び半分に走っているから感じること
であって、原価が変わるわけでもないのに違うセッティングを国
内向けに設定するのは、現実のユーザーの使用環境では、遊び半
分の運転とは違う要素が重要視されているということでもありま
す。
 乗り心地や安心感など、走る環境が違えば、サスペンションに
求められる性能もいろいろと変わってくるわけで、なんでもかで
もタイヤ鳴らして攻めれば、評価ができるというものではないの
ですが、自分は偉いと錯覚しているだけの人は、自分の視点と違
うものをひとつふたつ見つけただけで満足して、根本的に違う視
点からものを見ることが出来ずに失笑を買うわけですね。

         【自動車マニア実践講座】

             タイヤ


 「桶の理論」というものがあります。30年前にオーディオの
ブームがあった時に耳にした言葉です。レコードプレイヤー、ア
ンプ、スピーカーからなるオーディオシステムでは、その音質は、
その中で一番レベルの低いパーツによって決定されてしまうとい
うことを、高さの違う板で作られた桶に例えて、一番低いところ
までしか水は貯められないと説明した理論です。
 クルマの運動性能も、これとよく似ています。エンジンだけ立
派でも、サスペンションだけ高性能でも、タイヤだけ贅沢でも、
それだけではあまりよくなりません。一点豪華主義は、運動性能
にはあまりメリットはないわけですね。

 タイヤには、みっつの基本性能があります。車体を支える性能、
加速や減速をする性能、カーブを曲がる性能です。評論家は聞き
慣れない単語やグラフで言い換えますが、難しい専門用語を使う
人たちの例に漏れず、内容の空疎さをカムフラージュしているだ
けのはったりで、基本はこれだけです。
 車輪で走るために一番効率の良い方法は、鉄道のレールの上を
鉄の車輪で走る方法です。変形して熱を出して馬力をロスしたり
しない鋼鉄の車輪と、それでもスムーズに走れる線路、カーブの
遠心力には車輪の耳がふんばってくれます。クルマのタイヤには
耳がないので、路面の摩擦でふんばらなきゃいけませんから、び
たびたとくっつくトレッドが必要で、それは変形して熱を出しま
すし、熱が出ればゴムは溶けて減ることになります。

 タイヤのゴムを取り去ると、今は、針金で編んだカゴのような
ものが出てきます。身体を支える骨のようなものです。これが弱
いとくにゃくにゃと不安定になり、弱すぎればぺちゃんとつぶれ
ます。必要以上に強すぎると、ごつごつと乗り心地が悪くなり、
限度を過ぎればちょっとしたでこぼこでぴょんぴょん跳ねて、ま
ともに走れなくなります。タイヤの強さは骨だけではなくて空気
の圧力もあるので、こまかい調整は空気圧でやります。

 タイヤの理想の姿は、戦車やブルドーザーについているキャタ
ピラです。接地面が大きいからです。キャタピラシステムは重量
が非常に大きく、抵抗が大きくて馬力をロスするので、クルマは
タイヤを使って妥協しているわけですが、理想のタイヤを考える
ならば、接地面はながーく伸びて路面をグリップして、路面から
離れた瞬間に正円にもどってスムーズに回転するものが最高とい
うことになりますね。
 タイヤを柔らかくして空気を少しにすれば、理想に近いものが
できるのですが、これだと、ハンドルを切ってもぷるるんぷるる
んと頼りないですし、びったんびったんと路面を打つたびに発熱
しますし、速度が上がれば変形が収まる前に路面に打ち付けられ
ることになって、次の変形がどんどんと重なってタイヤの形を保
てなくなります。

 そんなわけで、現代の技術では、タイヤの性能はサイズに大き
く影響されます。直径が大きいか、あるいは幅が広いか、電池の
直列と並列のように、いずれも性能的に特徴がありますが、コス
トの問題もあって、性能の高いタイヤは、幅を広げて作ることの
ほうが多いですね。もちろん、サイズだけではなく、トレッドの
ゴムの硬さや溝の切り方、扁平率(これはタイヤの厚さを幅で割
った数字です)、骨組みの頑丈さや正確な円の形をしているかど
うかなど、いろいろな要素はありますが、サイズの違いを超える
ほどの差はでてきにくいのが現実です。

 




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